しあわせカタチ図鑑

地域に根差し、社会と繋がる働き方:会社員から地域活動家へ転身した軌跡

Tags: 地域活動, 移住, キャリアチェンジ, 生き方, 地域貢献

「しあわせカタチ図鑑」では、様々な生き方や働き方を通じて、それぞれの人が見出した幸せのカタチを紹介しています。今回は、長年勤めた会社を辞め、地域活動家として新たな一歩を踏み出した方の事例を取り上げます。都市のオフィスを離れ、地方のコミュニティに飛び込み、地域に根差した活動を通じて社会と繋がる生き方を選んだ背景、具体的な道のり、直面した困難、そしてその中で見出した幸せについて深掘りしていきます。

安定した会社員生活からの変化

今回お話を伺ったのは、Xさんです。Xさんは30代後半まで、大手企業の企画部門で働く会社員でした。仕事はやりがいもあり、経済的な安定も得られていましたが、どこか満たされない感覚を抱いていたと言います。

「日々の業務は充実していたものの、自分の仕事が社会のどこに、どのように貢献しているのかが漠然としていました。大きな歯車の一部であるという感覚が強く、もっと血の通った、顔が見える関係性の中で働きたいという思いが募っていったのです」とXさんは当時を振り返ります。

漠然とした思いは、週末にボランティアとして参加した地方の活性化イベントで具体性を帯びてきました。そこで出会った地域の人々の温かさや、自分たちの手で地域を良くしていこうという熱意に触れ、都市での消費中心の生活とは異なる価値観に強く惹かれたと言います。

地域との関わりを深める決断

地域との関わりを深めたいという思いから、Xさんはまず会社員としてのキャリアと並行して、興味を持った地域のNPO活動に参加を始めました。平日の終業後や週末を利用して、団体の企画会議に参加したり、イベントの準備を手伝ったりする中で、自身の持つ企画力や調整能力が地域活動でも活かせることを実感したそうです。

しかし、会社員としての業務と地域活動の両立は容易ではありませんでした。移動時間の確保、体力の消耗、そして何よりも限られた時間の中で地域活動に深くコミットできないことへのもどかしさを感じていたと言います。

「中途半端な関わり方では、地域の方々からの信頼も得にくいですし、自分自身も本当にやりたいことの核心に触れられないと感じていました。このままではどちらも疎かになってしまう、一度立ち止まって、自分の生き方そのものを見つめ直す必要があると強く感じたのです。」

そして、Xさんは大きな決断を下します。安定した会社員生活を辞め、関わっていたNPOの活動拠点がある地域へ移住し、本格的に地域活動に取り組むことを選んだのです。

新たなフィールドでの挑戦と直面した困難

会社を辞め、移住して地域活動家としての道を歩み始めたXさんを待ち受けていたのは、想像以上の困難でした。

最も大きな課題の一つは、経済的な面でした。地域活動はボランティアベースのものも多く、NPOからの謝礼やプロジェクトごとの委託費だけでは、以前のような安定した収入を得ることはできません。生活費を切り詰めながらの綱渡りの日々が続きました。

また、新しい地域コミュニティへの適応も容易ではありませんでした。部外者として見られているのではないかという不安、地域独自の慣習への戸惑いなど、人間関係における壁を感じることもあったと言います。

「これまで会社という組織の中で守られていたものがなくなり、文字通りゼロからのスタートでした。自分の力で生活を成り立たせなければならないという経済的なプレッシャー、地域に受け入れてもらえるのかという不安、そして活動が成果に繋がらない時の焦り。精神的にも追い詰められる時期がありました。」

活動面でも、計画通りに進まないことや、関係者間の意見の対立など、様々な壁にぶつかりました。会社員時代のように組織の後ろ盾があるわけではなく、全ての責任が自分に降りかかってくる状況に、孤独を感じることも少なくなかったそうです。

困難を乗り越え、見出した繋がり

こうした困難に直面しながらも、Xさんは決して諦めませんでした。経済的な課題に対しては、地域で求められているスキル(Webサイト作成、資料作成など)を活かした小さな仕事を請け負ったり、クラウドファンディングに挑戦したりと、収入源の多様化を図りました。

地域コミュニティへの適応については、積極的に地域の行事に参加したり、住民の集まりに顔を出したりと、地道な交流を重ねました。自分の持つスキルや経験を惜しみなく提供する中で、少しずつ地域の人々からの信頼を得ていったと言います。

「焦らず、まずは地域の一員として溶け込むことに専念しました。最初は挨拶から始まり、畑仕事を手伝ったり、地域の清掃活動に参加したり。見返りを求めずに関わる中で、自然と『Xさん』として声をかけてもらえるようになりました。会社員時代にはなかった、人と人との温かい繋がりを感じる瞬間が増えていきました。」

活動がうまくいかない時は、一人で抱え込まず、NPOの仲間や地域で相談できる人に正直な気持ちを話しました。共感してもらったり、具体的なアドバイスをもらったりする中で、困難を乗り越えるための力を得たと言います。

生活と価値観の変化

地域活動家としての生活は、会社員時代とは大きく変化しました。収入は以前より減りましたが、支出も抑えられ、何よりも時間と心に余裕が生まれたと言います。

「満員電車に揺られることもなくなり、時間に追われる感覚が薄れました。自分で自由にスケジュールを組めるので、地域のイベントや集まりにも気軽に参加できるようになりました。経済的な豊かさよりも、精神的な充足感、日々の充実感をより大切にするようになりました。」

人間関係も変化しました。会社内の限られた人間関係から、地域の人々、他の地域活動家、NPO関係者など、多様な人々との繋がりが広がりました。利害関係に基づかない、純粋な人の繋がりの中で、新しい価値観や視点を学ぶことが多くなったと言います。

仕事観についても、「誰かの役に立っている」「地域に貢献できている」という手応えを肌で感じられることに、以前は得られなかった深い喜びを感じるようになったそうです。

この事例から学ぶこと

Xさんの事例は、安定した道を離れても、自身の内なる声に従い、地域という新しいフィールドで社会と繋がる生き方を選択できることを示しています。

この事例から私たちは、以下の点を学ぶことができます。

多様な幸せのカタチ

Xさんが地域活動家として見出した幸せは、都市での会社員生活では得られなかった「地域に根差した繋がり」と「社会貢献への手応え」にあります。経済的な安定を手放すというリスクを伴う選択でしたが、それ以上に得るものがあったと言えるでしょう。

「幸せのカタチは一つではありません。私にとっての幸せは、この地域で、顔の見える人たちと協力しながら、自分たちの手でより良い未来を作っていくことだと感じています。もちろん大変なこともありますが、それ以上に、毎日が発見と喜びに満ちています。」

もしあなたが、今の働き方や生き方に疑問を感じ、地域との繋がりや社会貢献に興味があるなら、まずは週末に地域イベントに参加してみたり、興味のあるNPOの活動を調べてみたりすることから始めてみてはいかがでしょうか。小さな一歩が、あなた自身の新しい幸せのカタチを見つけるきっかけになるかもしれません。

「しあわせカタチ図鑑」では、これからも多様な生き方を紹介していきます。