しあわせカタチ図鑑

会社員からアクセサリー作家へ:地道な「好き」の追求が拓いた新しい道

Tags: アクセサリー作家, ハンドメイド, キャリアチェンジ, 好きを仕事に, 多様な働き方

「好き」を仕事にするという選択は、多くの人にとって憧れであり、同時に大きな決断を伴うものです。会社員という安定した環境から一歩踏み出し、自身の内なる情熱に従ってアクセサリー作家としての道を歩み始めた事例から、その道のりや直面する現実、そして見出した「自分らしい幸せ」のカタチを探ります。

会社員生活の中での「好き」との出会い

都内のIT企業で働くAさんは、多忙な日々の中で趣味としてアクセサリー作りを始めました。仕事で感じる漠然とした物足りなさや、自身の創造性を発揮する機会の少なさが、手を動かすことへの渇望に繋がったといいます。最初は市販のパーツを組み合わせる簡単なものからスタートしましたが、次第にオリジナルのデザインを追求したいという気持ちが募り、独学で技法を学び始めました。

週末や仕事終わりの時間を利用して、レジンやワイヤーワーク、ビーズ刺繍など、様々な技法を習得していきました。作品が形になる喜び、それを身につけた時の満足感は、会社での達成感とは異なる、より個人的で深いものだったとAさんは振り返ります。友人や同僚から作品を褒められるうちに、「これを仕事にできないか」という思いが芽生えてきました。

副業から専業への挑戦:葛藤と準備

会社員を続けながら、まずは副業としてアクセサリーの販売を始めました。週末の小さなマルシェに出展したり、minneやCreemaといったオンラインハンドメイドマーケットに出品したりしました。

副業とはいえ、デザイン考案、材料調達、制作、写真撮影、商品ページ作成、発送、顧客対応など、やるべきことは多岐に渡ります。平日は本業で疲れているため、帰宅後や休日は制作や事務作業に追われる日々でした。体力的な負担に加え、思うように売れない時期には精神的なプレッシャーも感じました。しかし、作品が売れた時の喜びや、購入者からの温かいメッセージは、何物にも代えがたいやりがいとなりました。

約2年間、副業として活動を続ける中で、アクセサリー作りと向き合う時間をもっと増やしたい、自分の世界観をもっと表現したいという思いが強くなりました。収入は本業の足元にも及ばず、経済的な不安は拭えませんでしたが、それでも「今挑戦しなければ後悔する」という気持ちが勝り、退職を決意しました。

退職を決めるまでの期間は、将来の見通しが立たないことへの不安、周囲の反対、そして自分自身への疑念など、様々な葛藤がありました。しかし、入念な事業計画の作成、数ヶ月分の生活費の確保、そして何よりも「好き」という気持ちを再確認することで、前に進む決意を固めたといいます。

専業アクセサリー作家としての現実と乗り越え方

専業となってからは、時間の使い方が大きく変わりました。全てを自己管理する必要があるため、規律を持って仕事に取り組むことが求められます。制作時間の確保はもちろん、材料の仕入れ、新作のデザイン考案、写真撮影、オンラインストアの更新、SNSでの発信、ワークショップの開催準備など、業務内容はさらに広がりました。

直面した困難は多岐にわたります。まず、収入の不安定さです。売上は時期によって大きく変動するため、常に不安がつきまといます。また、一人で全ての業務を行う孤独感、デザインの枯渇、競合が多い中でのブランディングの難しさなども、乗り越えるべき課題でした。

これらの困難に対し、Aさんは様々な方法で立ち向かいました。

経済面と生活の変化

経済的には、会社員時代の安定した給与と比較すると、収入は大きく変動します。特に初期の頃は経費がかさみ、収入が安定するまでには時間を要しました。しかし、自身で価格設定を行い、努力次第で収入を増やす可能性がある点は、会社員時代にはなかったやりがいの一つです。現在は、複数の販売チャネルを持つことや、ワークショップ開催による収入源の多角化を図ることで、少しずつ経済的な安定を目指しています。

生活面では、時間の使い方が最も大きく変化しました。通勤時間がなくなった分、朝の時間を有効活用できるようになりました。また、仕事とプライベートの境界線が曖昧になりがちですが、意識的に休息時間や趣味の時間を作るように心がけています。人間関係においては、会社員時代の同僚との繋がりを大切にしつつ、作家仲間や顧客との新しい繋がりが生まれました。作品を通じて人々と喜びを分かち合えることは、Aさんにとって大きな心の支えとなっています。

「好き」の追求がもたらす、自分らしい幸せ

会社員からアクセサリー作家への転身は、決して楽な道ではありませんでした。経済的な不安、孤独、業務の多様さなど、様々な困難に直面しています。しかし、Aさんは「好き」を仕事にすることで、何よりも「自分自身の感覚に正直に生きられている」と感じています。

自分でデザインし、手を動かして形を作り、それが誰かの手に渡り、喜んでもらえる。その一連のプロセスに、大きなやりがいと喜びを見出しています。収入や社会的な地位といった外的な基準だけでなく、自身の内なる声に従い、創造性を発揮できること、そして作品を通じて人々と繋がれることが、Aさんにとっての「自分らしい幸せ」のカタチとなっています。

この事例は、「好き」という純粋な気持ちを原動力に、地道な努力と試行錯誤を重ねることで、新たな道を切り拓ける可能性を示唆しています。困難を乗り越えながら、自身の価値観に基づいた生き方を模索する姿は、多様な幸せのカタチが存在することを私たちに教えてくれます。