会社員から整理収納アドバイザーへ:モノと心の整理で発見した新しい働き方
整理収納アドバイザーという仕事は、単に物理的な空間を片付けるだけでなく、依頼者の心に寄り添い、生活全体をより快適に、より自分らしく整えるサポートを行う専門職です。近年、自身の暮らしを見直す中で、会社員からこの道へ転身する方が増えています。ここでは、会社員として働く中で整理収納の重要性に気づき、その専門家として新たな一歩を踏み出した方の事例をご紹介します。この事例から、自身の経験を活かす働き方や、多様な幸せのカタチについて考えるヒントが得られるかもしれません。
会社員時代の葛藤と整理への気づき
ご紹介する方は、かつて一般企業で働く会社員でした。日々の業務に追われ、自宅は常にモノで溢れかえっている状態だったと言います。仕事のストレスや疲労に加え、片付かない部屋を見るたびに自己嫌悪に陥り、心も乱れていくのを感じていたそうです。
ある時、一念発起して自宅の整理に取り組んだことをきっかけに、モノを整理することが物理的な空間だけでなく、思考や感情にも影響を与えることに気づきました。不要なモノを手放し、必要なモノがどこにあるか把握できるようになるにつれて、心が軽くなり、仕事への集中力も増したと感じたそうです。この経験から、「整理」という行為の持つ力に深く感銘を受け、自身の人生における重要なテーマとなりました。
整理収納アドバイザーへの道を決意
自身の経験を通じて整理の力を実感した方は、この感動を他の人にも伝えたいという強い思いを抱くようになります。会社員としての仕事にもやりがいは感じていましたが、どこか満たされない感覚や、このまま同じ働き方を続けることへの疑問も抱えていました。「好き」や「得意」を仕事にしたいと考え始めた時、自身の整理経験が結びつきました。
まずは、整理収納に関する専門知識を体系的に学ぶことから始めました。資格取得のための講座に通ったり、関連書籍を読み込んだりする日々でした。並行して、身近な家族や友人の依頼を受け、実際に整理サポートを行う中で、実践的なスキルとクライアントとの関わり方を学びました。この段階では、会社員としての収入を維持しながら、休日や退勤後の時間を活用する形でした。本業と勉強・副業の両立は体力的に厳しい面もありましたが、好きなこと、やりたいことに向かっているという実感があり、以前よりも精神的に満たされていったと言います。
独立後の困難と挑戦
会社員を辞め、整理収納アドバイザーとして本格的に独立した当初は、多くの困難に直面しました。最も大きな課題は、ビジネスとしての軌道に乗せることでした。
- 集客の壁: どのように自分を知ってもらい、サービスを利用してもらうか。最初はSNSでの発信やブログ、地域のイベントへの参加など、地道な活動から始めました。
- 収入の不安定さ: 依頼がある時とない時の波があり、会社員時代の安定した月収とのギャップに戸惑いました。価格設定やサービス内容の見直し、複数の収入源(セミナー講師、メディア掲載など)を模索する必要がありました。
- クライアントとの信頼関係: クライアントの自宅という非常にプライベートな空間に入り、モノや思い出、家族の問題など、デリケートな部分に触れる仕事です。信頼関係を築き、相手の気持ちに寄り添いながら、プロとして最適な提案を行うバランスが求められました。中には、長年の習慣や家族の反対など、スムーズに進まないケースもありました。
- 精神的な負荷: クライアントの抱える悩みや、モノにまつわる複雑な感情に触れることも少なくありません。共感しすぎると疲弊してしまうため、自分自身の心のケアや、プロとしての冷静な視点を保つことの重要性を実感しました。
これらの困難に対し、ただ落ち込むのではなく、一つ一つ課題として捉え、解決策を模索しました。他の整理収納アドバイザーとの情報交換や、ビジネスの専門家から学ぶ機会も得ました。何よりも支えになったのは、「片付けられて、本当に気持ちが楽になりました」「探し物の時間がなくなり、家族との時間が増えました」といった、クライアントからの感謝の声だったと言います。他者の変化を間近で見られることが、自身の活動の大きな原動力となりました。
働き方と生活の変化
整理収納アドバイザーとして独立してからの生活は、会社員時代とは大きく変わりました。
時間の使い方は、完全に自己管理となりました。依頼によってスケジュールが変動するため、柔軟な対応が求められます。一方で、自分で仕事量や働く時間を選べる自由さも手に入れました。早朝や夜遅くの作業が必要な場合もありますが、好きな仕事に費やす時間であるため、苦痛は少ないと言います。
収入は安定こそしませんが、仕事に対する満足度は非常に高いと感じています。自身のスキルや経験が直接クライアントの役に立ち、感謝されるという経験は、金額に代えがたい価値があります。経済的な不安を完全に払拭できたわけではありませんが、やりがいがそれを上回っている状態です。
人間関係においては、会社組織内の関係から、クライアント、同業者、地域の様々な人との緩やかな繋がりへと変化しました。自身の専門性を必要としてくれる人との出会いは、新たな刺激と学びをもたらしています。
そして、自身のモノとの向き合い方もさらに深まりました。プロとして知識をアップデートし続ける中で、ミニマリズムや環境問題など、様々な視点から「モノと人間」の関係性を考えるようになりました。自身の暮らしも常に心地よい状態に保つことを意識し、それが仕事にも良い影響を与えています。
この事例から得られる示唆
この方の事例は、「好き」や「自身の経験」を仕事にすることの可能性を示唆しています。会社員時代に自身が抱えていた「片付けられない」という悩みは、多くの人が共感できる普遍的な課題でした。その課題を克服した経験が、そのまま他者を助けるための「強み」となり、新たなキャリアへと繋がっています。
また、独立という道は困難も伴いますが、それを乗り越えるプロセス自体が自己成長に繋がります。計画通りにいかないことや予期せぬ問題に直面した時、どのように考え、行動するか。その一つ一つの選択が、自分自身のキャリアと人生を創り上げていくのです。
経済的な安定を手放すことに対する不安は大きいかもしれません。しかし、この事例のように、やりがいや自己実現、そして他者への貢献を通じて得られる満足感は、会社員という働き方の中では得られなかった種類の「幸せ」であると言えるでしょう。
多様な幸せのカタチ
「しあわせカタチ図鑑」では、人それぞれの多様な生き方や幸せのカタチを紹介しています。今回ご紹介した整理収納アドバイザーへの転身も、その一つの事例です。
会社員という安定したレールから外れることには勇気が必要ですが、自身の内なる声に耳を傾け、一歩踏み出すことで、想像していなかったような新しい世界が広がる可能性があります。モノを整理することを通じて自身の人生を再構築したように、私たち一人ひとりが、自分にとって心地よい「幸せのカタチ」を自らの手で創り上げていくことができるのです。
もし今、キャリアや生き方に迷いを感じているのであれば、自身の過去の経験や「好き」なことの中に、未来へのヒントが隠されているかもしれません。立ち止まって、自身の「モノ」や「心」、そして「時間」との向き合い方を見つめ直してみることから、新しい可能性が見えてくることもあります。