しあわせカタチ図鑑

会社員からリノベーションプランナーへ:暮らしをデザインする新しい生き方

Tags: リノベーション, キャリアチェンジ, 働き方, 生きがい, 住まい

漠然とした違和感と「暮らし」への関心

多くの会社員が、日々の業務の中で「本当にこのままで良いのだろうか」という漠然とした問いを抱くことがあります。安定した収入や社会的な立場は得られていても、心の中に満たされない感覚が残る。今回ご紹介するAさんも、かつてそのような思いを抱えていた一人です。

都内の大手メーカーで営業職として勤務していたAさんは、成績も安定し、周囲からの評価も得ていました。しかし、ルーチンワーク化する日々に物足りなさを感じていたと言います。プライベートではインテリア雑誌を眺めるのが好きで、友人の引っ越し時には部屋のレイアウトについてアドバイスを求められることもありました。そうした時間だけが、会社での時間とは異なる充実感を与えてくれたそうです。

ある時、Aさんは自身の住まいのリノベーションを経験します。専門家と話し合いながら、自身の理想とする暮らしのイメージを形にしていくプロセスに、これまでにない大きな喜びを感じました。それは単に古いものを新しくすることではなく、空間の可能性を引き出し、そこに住む人の生き方そのものを豊かに変える力があることを実感した瞬間でした。この経験が、Aさんにとって「暮らし」というものへの関心を、単なる趣味から人生を変える可能性へと変える決定的なきっかけとなったのです。

転身への第一歩:情報収集と学び

リノベーションの経験から「暮らしをデザインする仕事」への興味が芽生えたAさんでしたが、すぐに会社を辞める決断はできませんでした。未経験の世界へ飛び込むことへの不安、経済的な安定を失うことへの恐れは大きかったと言います。

まずAさんが始めたのは、情報収集でした。リノベーション業界に関する書籍を読み漁り、関連するセミナーに参加し、実際にリノベーションを手がけた知人に話を聞きました。また、建築やデザインに関する基礎知識を身につけるため、夜間の専門学校に通うことも検討しました。

いくつかの選択肢を比較検討した結果、Aさんは「住空間プランナー」のような、デザインだけでなくお客様のライフスタイルや価値観を深く理解し、最適な空間を提案する仕事に魅力を感じました。未経験からこの分野で働くためには、専門知識と実務経験が不可欠であることを痛感し、まずはリノベーション関連の資格取得を目指すことを決意します。会社員としての業務と並行して、仕事後や週末の時間を活用し、集中的な学習期間に入りました。

困難の連続と、それでも続けた理由

資格を取得し、いよいよ会社を辞めてリノベーションの世界へ飛び込んだAさん。しかし、現実は想像以上に厳しいものでした。まず直面したのは、安定収入の途絶です。会社員時代の収入に比べ、フリーランスとして独立した当初の収入は大きく変動し、生活資金の管理に頭を悩ませました。

また、実績のないAさんが仕事を受注することは容易ではありませんでした。デザインやプランニングのスキルだけでなく、顧客獲得のための営業力や、プロジェクトを円滑に進めるためのコミュニケーション能力、建築知識など、求められる能力が多岐にわたることを痛感しました。図面作成や現場管理など、デスクワークとは全く異なる体力的な負担にも慣れる必要がありました。

時には、お客様との意見の相違からプロジェクトが難航したり、予期せぬ問題が発生して納期に追われたりすることもありました。会社員時代のように、困ったときにすぐに相談できる上司や同僚がいるわけではありません。全てを一人で抱え込み、孤独を感じる瞬間も少なくなかったと言います。

それでもAさんが歩みを止めなかったのは、仕事を通じてお客様の笑顔に触れる喜びがあったからです。自身の提案した空間でお客様が心から満足し、「ありがとう」と感謝の言葉を伝えてくれたとき、これまでの苦労が報われる以上のやりがいを感じたそうです。また、「暮らしをデザインする」という仕事の根源にある、「人の幸せに貢献したい」という自身の強い想いが、困難に立ち向かう原動力となりました。

暮らしと価値観の変化:見つけた「自分らしい幸せ」

リノベーションプランナーとして経験を積むにつれて、Aさんの生活は大きく変化しました。経済的な安定は会社員時代ほどではないかもしれませんが、仕事の成果が直接収入に結びつくため、自身の働き方や時間の使い方に対する意識が高まりました。労働時間は長くなることもありますが、仕事そのものが趣味の延長線上にあるため、疲労感よりも充実感の方が大きいと言います。

人間関係も変化しました。会社員時代の同僚との付き合いが減る一方で、お客様や工務店、他のクリエイターなど、多様なバックグラウンドを持つ人々との新たな繋がりが生まれました。特に、お客様とじっくり向き合い、その人の「暮らし」を深く理解しようと努める中で、以前よりも他者への共感力が高まったと感じています。

最も大きな変化は、Aさん自身の価値観です。以前は「出世」や「安定」といったものが幸せの基準だったかもしれません。しかし今は、「誰かの暮らしを豊かにすること」や「自身の感性を活かしてものづくりに関わること」に、何物にも代えがたい価値を見出しています。自身の住まいに対する意識も変わり、単なる居住空間としてではなく、自分自身の内面を表す鏡として、より丁寧に暮らしを整えるようになったと言います。

まとめ:暮らしと向き合うことから生まれる可能性

Aさんの事例は、会社員という安定した環境から未知の世界へ飛び込む挑戦が、いかに多くの困難を伴うかを示しています。しかし同時に、自身の内なる声に耳を傾け、「好き」や「興味」を深掘りし、行動に移すことで、これまでの人生では想像もしなかった「自分らしい幸せ」に出会える可能性があることを教えてくれます。

「暮らしをデザインする」というAさんの仕事は、単に建物を改修することではありません。それは、そこに住む人の過去、現在、未来に寄り添い、より豊かで心地よい日々を送れるよう、空間を通じてサポートすることです。この仕事を通じて、Aさんは自身の暮らしや価値観と深く向き合い、内面的な充足を得る生き方を選び取りました。

現在の働き方や生き方に課題を感じている方は、まずは自身の「暮らし」や「住まい」に目を向けてみることから始めてはいかがでしょうか。自分がどのような空間で、どのような時間を過ごしたいのか。理想の暮らしを思い描くことは、新たな可能性や幸せのカタチを見つけるための、小さな、しかし確かな第一歩となるかもしれません。