しあわせカタチ図鑑

会社員からガーデナーへ:緑に囲まれ見つけた新しい生き方

Tags: ガーデニング, キャリアチェンジ, 趣味の仕事化, 転職, フリーランス, 生き方

オフィスから庭へ:緑と共に歩む生き方

都会のオフィスで、数字や書類に囲まれた日々を送る中で、ふと窓の外の緑に心惹かれる瞬間は少なくないかもしれません。日々の忙しさに追われる会社員生活から離れ、植物と土に触れる時間の中に「自分らしさ」や「幸せ」を見出す人もいます。ここでは、長年会社員として働いた後、ガーデナーとして新たな道を歩み始めたAさんの事例をご紹介します。Aさんの経験から、既存の枠にとらわれない生き方を選択することの意義や、それに伴う挑戦、そして多様な幸せのカタチについて考えていきます。

会社員時代と植物への想い

Aさんは、都内のIT企業でシステムエンジニアとして約15年間勤務していました。責任ある立場にあり、やりがいも感じていましたが、長時間労働や常に変化する技術への対応に、精神的な疲労を感じることもありました。そんなAさんの心を癒やしていたのは、週末に自宅の小さなベランダで植物の手入れをすることでした。ハーブを育てたり、季節の花を植え替えたりする時間は、デジタルな世界から離れ、土や植物の感触に触れることができる貴重な休息でした。

最初は単なる趣味でしたが、植物が日々の成長を見せてくれることに深い喜びを感じるようになります。種類を増やし、育て方を学ぶうちに、ガーデニングはAさんにとってかけがえのない時間となっていきました。植物が持つ生命力や、自然のリズムに触れることで、会社員生活で感じていた閉塞感が少しずつ和らいでいくのを感じていたそうです。

転機と新たな一歩:趣味を仕事に

ガーデニングへの情熱が深まるにつれて、Aさんは「この好きなことをもっと深く学びたい、そしていつか仕事にできたら」と考えるようになりました。会社員を続けながら、休日にガーデニングの専門学校に通い始め、植物の知識やデザイン、施工技術などを基礎から学びました。同時に、知人や友人から小さな庭の手入れやベランダガーデンの相談を受けるようになり、少しずつ実践経験を積んでいきました。

専門学校での学びや、実際に依頼を受けて作業をする中で、Aさんは「植物を通して人の暮らしを豊かにする仕事」の魅力を強く感じるようになります。会社員としての安定した収入や地位を手放すことへの不安はもちろんありましたが、「このまま会社員を続けるよりも、植物と向き合う時間をもっと持ちたい」という気持ちが強くなっていきました。そして、40代を前に一大決心し、会社を退職することを決意しました。

現実との直面:困難と挑戦

会社員からガーデナーへの転身は、決して平坦な道ではありませんでした。まず直面したのは、経済的な不安です。会社員時代の安定した月給がなくなり、収入は受注した仕事の分だけという不安定な状況になりました。開業資金や道具、車両の購入なども必要となり、最初のうちは貯蓄を切り崩す日々が続きました。

また、ガーデニングは体力も必要とされる仕事です。土を運び、重い植木鉢を移動させ、時には夏の暑さや冬の寒さの中で作業を行います。デスクワーク中心だった会社員時代とは異なり、肉体的な疲労を感じることも増えました。

さらに、個人で仕事をしていく上での集客や営業、経理といった業務も全て自分で行う必要がありました。技術や知識があっても、どうやってお客様を見つけるのか、どのように自分のサービスを伝えるのか、手探りの状態が続きました。当初は依頼が思うように増えず、「本当にこの選択で良かったのか」と悩むこともあったそうです。

困難を乗り越えるプロセス

Aさんはこれらの困難に対し、一つずつ丁寧に向き合っていきました。経済的な不安に対しては、まずはコストを最小限に抑え、実績を積み重ねることで少しずつ単価を上げていく計画を立てました。体力的負担については、自身のペースを守りながら、効率的な作業方法を模索したり、無理なスケジュールは組まないように調整したりしました。

集客や営業については、ウェブサイトやSNSを活用し、過去の施工事例や日々の活動を発信する工夫をしました。また、地域のイベントに出展したり、交流会に参加したりして、人との繋がりを広げました。紹介での依頼が増えるにつれて、徐々に仕事が軌道に乗り始めました。

何よりも大きかったのは、「好き」を仕事にしているという原動力でした。困難に直面しても、植物に触れている時や、依頼主が庭の変化に喜んでくれる姿を見た時に、「この仕事を選んで良かった」と改めて感じることができたそうです。苦労しながらも、一つ一つの仕事を丁寧にこなすことで信頼を得ていき、リピーターや新たな紹介へと繋がっていきました。

変化した生活と価値観

ガーデナーになってからのAさんの生活は大きく変化しました。働く時間や場所は固定されず、天候や季節、依頼に合わせて柔軟に調整するようになりました。朝早くから植物市場へ買い付けに行ったり、依頼主の庭で一日中作業したりと、会社員時代とは全く異なるリズムで日々を送っています。

収入面では、会社員時代のような安定性はまだありませんが、仕事のやりがいや満足感は以前より高まったと感じています。お金を得ることだけでなく、植物の成長を見守り、美しい庭を作り上げるプロセスそのものに価値を見出せるようになりました。

人間関係も変化しました。会社の同僚や取引先との関係から、依頼主、植物業者、他のガーデナー仲間、地域の住民との繋がりへと広がりました。特に、植物という共通の話題を持つ仲間との交流は、新たな学びや刺激となっています。

そして何より、Aさんの価値観は「成果や効率」から「自然のリズムやプロセス」へと変化しました。植物はすぐに結果が出るものではありません。種をまき、水をやり、時間をかけて見守る。そのプロセスを楽しむこと、予測不能な自然の力と向き合うことの中に、以前は気づけなかった豊かさがあることを知りました。緑に囲まれた環境で過ごす時間が増えたことで、心身ともに穏やかになったと感じているそうです。

この事例から見えること

Aさんの事例は、「好き」という気持ちを原動力に、安定した会社員という立場を離れ、新しい生き方を切り開いた一例です。挑戦には必ず困難が伴いますが、それらを乗り越えるための具体的な行動や、目的を見失わない情熱が重要であることを示しています。

経済的な安定だけが幸せの基準ではないこと、そして、自身の内なる声に耳を傾け、キャリアや生き方を選択することの可能性を教えてくれます。ガーデナーという仕事を通じて、Aさんは自然との繋がりを取り戻し、他者の生活を豊かにするというやりがいを見つけました。

もしあなたが、現在のキャリアに疑問を感じていたり、心惹かれる何かがあるのなら、Aさんのように小さな一歩から踏み出してみることもできるかもしれません。それは必ずしも会社を辞めることだけではなく、まずは副業として始めてみたり、関連するコミュニティに参加してみたりすることかもしれません。自身の「好き」や「興味」を掘り下げていく先に、多様な幸せのカタチが待っている可能性があります。Aさんの生き方は、私たち一人ひとりが自身の幸せの定義を見つけ、そのカタチを創造していくことの勇気を与えてくれるのではないでしょうか。