しあわせカタチ図鑑

会社員経験を活かし、組織を支援する道へ:研修講師・コンサルタントで見つけた新たな生き方

Tags: キャリアチェンジ, 独立・起業, 研修講師, 組織コンサルタント, セカンドキャリア, 経験を活かす

「しあわせカタチ図鑑」は、人それぞれの多様な幸せのカタチや生き方を紹介する事例集です。今回は、長年勤めた会社を離れ、自身の経験を活かして研修講師・組織コンサルタントとして独立した方の軌跡をご紹介します。安定した会社員の立場から一転、フリーランスとして新たな一歩を踏み出した彼の体験談は、キャリアの可能性を広げたいと考える多くの方にとって、示唆に富む内容となるでしょう。

会社員時代の経験と、転身を決めた背景

今回お話を伺ったAさんは、大学卒業後、約20年にわたり大手企業に勤務されていました。主に管理部門で組織運営や人材育成に携わり、多くの部署やチームを率いる経験を積んでこられました。会社員としてのキャリアは順調で、安定した収入と社会的な信用を得ていました。

しかし、組織の一員として働く中で、Aさんは次第にある課題意識を持つようになります。「もっと直接的に、人や組織の成長に貢献したい」「自分の培ってきた知識や経験を、特定の組織だけでなく、より広く社会に還元したい」という思いが募っていきました。会社の枠を超えて、自身の専門性を活かす道はないか、と模索を始めたのです。

様々な選択肢を検討する中で、Aさんの目に留まったのが、研修講師や組織コンサルタントという仕事でした。これは、自身の会社員時代の経験、特に人材育成や組織開発に関する知見をそのまま活かせる分野であると考えました。会社という安定した環境を手放すことへの不安は当然ありましたが、「このまま会社にいても、自分の本当にやりたいことは実現できないかもしれない」という危機感と、「新しい挑戦で得られるであろう成長ややりがい」への期待が上回り、独立という大きな決断を下すことになりました。

独立に向けた準備と、活動開始

独立を決意してからのAさんは、情報収集と自己投資に多くの時間を費やしました。まずは、研修講師やコンサルタントとして活動するために必要なスキルや知識を体系的に学ぶため、専門の講座を受講したり、関連書籍を読み漁ったりしました。また、これまでの業務経験を棚卸しし、自身の強みや提供できる価値を明確にする作業にも取り組みました。

並行して行ったのが、人脈作りです。これまでの業務を通じて培った社内外のネットワークに加え、異業種交流会や専門分野のコミュニティに積極的に参加し、独立後のお客様となる可能性のある方々や、同じ業界で働く専門家との繋がりを築いていきました。

会社を退職したのは、独立の準備がある程度整った後でした。退職後は、個人事業主として開業し、まずはこれまでの人脈を頼りに、小規模な研修やコンサルティング案件から受注を始めました。当初は、継続的な案件を獲得することに苦労し、経済的な不安を感じる時期もありました。会社員時代の安定した給与とは異なり、収入は常に変動的で、自ら案件を探し、提案し、実行し、結果を出す責任が重くのしかかりました。

直面した困難と、それを乗り越えるプロセス

独立後の最も大きな困難は、やはり経済的な不安定さと、それから来る精神的なプレッシャーでした。最初の頃は、収入が途絶えるのではないかという不安が常に頭の中にあり、十分な睡眠が取れない日もあったといいます。また、会社という組織に守られていた頃とは異なり、全ての業務(営業、契約、実施、経理など)を一人で行わなければならないため、時間管理や自己管理の徹底が求められました。孤独を感じることも少なくありませんでした。

これらの困難を乗り越えるために、Aさんはいくつかのことを実践されました。まず、経済的な不安に対しては、徹底した資金管理と、複数の収入源を確保するための努力を行いました。単発の研修だけでなく、継続的なコンサルティング契約を目指したり、オンラインでのコンテンツ提供を検討したりと、事業の多角化を意識したのです。

孤独感や自己管理の難しさに対しては、定期的に他のフリーランスや専門家と交流する場を持つようにしました。同じような立場の仲間と悩みを共有したり、情報交換をしたりすることで、精神的な支えとなり、新たな視点やアイデアを得ることができたといいます。また、意識的に休息を取り入れ、趣味の時間を設けるなど、心身の健康維持にも努めました。

そして何より大きかったのは、「人や組織の成長に貢献したい」という自身の根幹にある思いを常に意識し続けたことです。目の前の困難に立ち止まりそうになる時も、自身の仕事がお客様から感謝され、具体的な成果に繋がる瞬間に立ち会うたび、この道を選んで良かったという確信を深めることができたそうです。

生活や価値観の変化

独立後、Aさんの生活は大きく変化しました。最も顕著なのは、時間の使い方が自身の裁量に委ねられるようになったことです。会社員時代のような決まった勤務時間や場所に縛られることはなくなり、仕事とプライベートの境界線は曖昧になりました。これは自由であると同時に、自己規律がなければすぐにバランスを崩してしまう危うさも伴います。Aさんは、あえて日々のスケジュールを細かく設定したり、働く場所を使い分けたりすることで、意識的にオンオフの切り替えを行うようにしています。

経済的な面では、前述の通り不安定な時期を乗り越え、現在は会社員時代と同等、あるいはそれ以上の収入を得られるようになりつつあります。しかし、そこに至るまでには数年間の地道な努力と試行錯誤が必要でした。収入が自身の働きや成果にダイレクトに反映されるようになったことで、仕事への向き合い方もより真剣になったといいます。

人間関係も変化しました。会社内の同僚や上司との関係から、顧客企業の担当者、研修受講者、そして同じ分野で活動する他の専門家との関係が中心となりました。様々な業界や立場の人々と関わることで、視野が広がり、新たな学びを得る機会が増えました。

そして、「幸せ」に対する価値観も変わったとAさんは語ります。かつては安定した収入や社会的地位に重きを置いていた部分がありましたが、独立を経て、自身の内側から湧き上がるやりがいや、他者の成長に貢献できているという実感、そして、自分自身で生き方を選択できているという自立心こそが、真の幸せに繋がるのだと感じるようになったそうです。経済的な安定は重要ですが、それが全てではないということに気づいた、とAさんは笑顔で話してくださいました。

この事例から得られる示唆

Aさんの事例は、会社員として培った経験やスキルが、組織を離れた後も十分に通用し、新たなキャリアを築く大きな力となることを示しています。そして、安定を手放して挑戦することには必ず困難が伴いますが、それを乗り越える過程で得られる学びや成長、そして何より「自分らしい生き方」を選択できているという実感は、何物にも代えがたい価値を持つことを教えてくれます。

彼の軌跡は、「会社員以外の選択肢」を考えている読者の方々にとって、自身の可能性を再認識するヒントとなるのではないでしょうか。自身のこれまでの経験の中に、別の形で活かせる強みはないか。自分が本当に情熱を傾けられることは何か。そして、安定と引き換えに得られるものは何か。Aさんの体験談は、そうした問いと向き合うきっかけを与えてくれます。

幸せのカタチは一つではありません。Aさんのように、自身の経験を再構築し、社会に貢献する形で自己実現を目指す生き方も、また一つの素晴らしい幸せのカタチと言えるでしょう。