しあわせカタチ図鑑

会社員からヨガインストラクターへ:心と体に向き合い見つけた新しい幸せ

Tags: ヨガインストラクター, キャリアチェンジ, 新しい生き方, 困難と克服, ウェルビーイング

心身のバランスを求めて

慌ただしい毎日の中で、心と体のバランスを崩しかけていたある日、ヨガに出会いました。それは、それまで感じたことのない静けさと、内側からのエネルギーに満たされるような体験でした。デスクワーク中心の会社員として、目の前の業務をこなすことに追われる日々。達成感はあっても、どこか満たされない、漠然とした不安や疲れを感じていました。そんな中でヨガがもたらしてくれた変化は、私にとって衝撃的だったのです。

呼吸に意識を向け、一つ一つのポーズに集中する時間。それは、普段どれだけ自分が外側の情報や評価に振り回されていたかに気づかせてくれました。ヨガを続けるうちに、体は軽くなり、心の状態も穏やかになっていくのを感じました。この素晴らしい経験を、かつての私と同じように心や体に疲労を感じている人に伝えたい。そんな思いが芽生え始め、会社員として働きながら、ヨガインストラクターの養成講座に通い始めたのです。

転身への道のり

会社員としてフルタイムで働きながらの受講は、時間的にも体力的にも容易ではありませんでした。平日の終業後に急いでスクールに向かい、週末は集中的に学ぶ日々。友人との付き合いや趣味の時間は大幅に減りましたが、ヨガを深めることへの情熱が、私を突き動かしていました。

講座では、ポーズの指導法だけでなく、ヨガの哲学や解剖学、呼吸法など、多岐にわたる知識を学びました。体と心の繋がり、そしてそれが日々の生活や人生にどのように影響するのかを知ることは、非常に刺激的な経験でした。卒業後、まずは副業として、週末や平日の夜間に地元の小さなスタジオでクラスを持たせてもらうことから始めました。

慣れない指導、生徒さんの前での緊張、レッスンの構成を考える難しさなど、実践は学びの連続でした。会社での業務とは全く異なる種類の疲労も感じましたが、生徒さんがレッスン後に見せてくれる笑顔や、「体が楽になった」「心が軽くなった」という言葉を聞くたび、大きなやりがいを感じました。

数年間、会社員とインストラクターの「二足のわらじ」生活を続けました。安定した収入と社会的立場を手放すことへの迷いは常にありましたが、ヨガを通して他者に貢献できる喜びが、その迷いを徐々に上回っていきました。そして、インストラクターとしての活動をもっと広げたい、という強い思いから、会社員を辞め、ヨガインストラクターとして独立する決断を下したのです。

直面した困難と、その乗り越え方

会社員という「看板」を失った後、すぐに経済的な壁に直面しました。レッスンの収入は不安定で、毎月の収入は会社員時代の半分以下になることも珍しくありませんでした。集客は最大の課題で、どうすれば自分の存在を知ってもらえるのか、どのように生徒さんを増やしていけば良いのか、常に頭を悩ませていました。

また、会社員時代には意識しなかった事務作業(予約管理、経費計算、広報活動など)にも時間を取られ、レッスン以外の業務が多いことに驚きました。孤独を感じることもありました。組織の一員として働くこととは異なり、全てを自分の責任で行わなければならないからです。

これらの困難に対し、私はいくつかの方法で立ち向かいました。まず、集客については、地元の情報誌に掲載を依頼したり、SNSで定期的に情報を発信したり、地域のイベントで無料体験クラスを実施したりと、できる限りの努力を続けました。生徒さんとのコミュニケーションを大切にし、一人ひとりのニーズに寄り添う丁寧な指導を心がけることで、口コミで生徒さんが増えていくこともありました。

経済的な不安定さに対しては、すぐに大きな収入を得ようとするのではなく、まずは活動を継続することに重点を置きました。生活コストを見直し、必要最低限の支出に抑える工夫をしました。また、スタジオでの指導だけでなく、オンラインでのクラス開催や、企業向けの福利厚生としてのヨガクラスの企画など、収入源の多様化にも取り組みました。

何よりも支えになったのは、ヨガを通して繋がった人々との関係です。生徒さんからの温かい言葉や、他のインストラクターとの情報交換や励まし合いが、困難な時期を乗り越える大きな力となりました。また、ヨガの実践そのものが、私自身の心の状態を安定させ、困難に立ち向かうための内なる強さを与えてくれました。

生活の変化と、見つけた新しい幸せ

会社員時代と比較すると、収入は確かに不安定になりましたが、生活の質は格段に向上したと感じています。まず、時間の使い方が大きく変わりました。満員電車に揺られることもなくなり、朝の時間を自分のヨガプラクティスや学びの時間に充てられるようになりました。レッスンのスケジュールは自分で決められるため、比較的柔軟な働き方が可能になりました。

人間関係も変化しました。会社組織の中での縦や横の繋がりから、ヨガを通して出会う様々な年代や背景を持つ人々とのフラットな繋がりが中心になりました。生徒さんの成長や変化を間近で見守ることができるのは、大きな喜びです。

価値観についても変化がありました。物質的な豊かさや社会的地位よりも、心身の健康、人との繋がり、そして「誰かの役に立つ」という貢献感に、より大きな価値を見出すようになりました。経済的な安定は重要ですが、それだけが幸せの尺度ではないことを、身をもって知ったのです。

もちろん、不安が全くなくなったわけではありません。しかし、困難を一つ一つ乗り越えるたびに、自分自身の可能性や強さを信じられるようになりました。それは、会社員時代には得られなかった、内側からの自信とでも言うべきものです。ヨガを通して自分自身と深く向き合った経験が、生き方そのものを変える大きなきっかけとなりました。

事例から得られる示唆

この事例から、いくつかの示唆が得られるかもしれません。

第一に、現在のキャリアに課題を感じているなら、まずは小さな一歩を踏み出してみることの大切さです。私の場合はヨガを「学び始める」こと、そして「副業として試してみる」ことでした。最初から全てを変えようとするのではなく、無理のない範囲で興味のある分野に触れてみることが、新しい道を見つけるきっかけになる可能性があります。

第二に、困難や不安は必ず訪れるものとして受け止め、それらを乗り越えるための具体的な行動や、周囲のサポートを求める勇気を持つことです。特に、経済的な不安定さや孤独感は、独立やキャリアチェンジにつきものかもしれません。しかし、そこから逃げずに工夫を凝らし、人との繋がりを大切にすることで、道は開けていく可能性があります。

第三に、幸せの尺度は一つではない、ということです。会社員としての安定や収入は、確かに一つの幸せの形です。しかし、心身の健康、やりがい、人との繋がり、貢献感といった、目には見えない価値にこそ、真の豊かさや自分らしい幸せが宿っているのかもしれません。この事例が、ご自身の「幸せのカタチ」について考えるための一助となれば幸いです。

多様な生き方や働き方が存在する現代において、自分にとって本当に大切なものは何か、どんな状態が心から満たされるのかを問い直してみることは、より豊かな人生を送る上で重要なことなのではないでしょうか。