しあわせカタチ図鑑

会社員を辞め、コーチとして歩み始めた新たな道:自身の経験を活かし、他者の伴走者となる

Tags: コーチング, キャリアチェンジ, 独立, フリーランス, 生き方

「しあわせカタチ図鑑」では、多様な生き方や働き方を実践する方々の事例を紹介しています。今回は、長年会社員として働きながらもキャリアに疑問を感じ、最終的にコーチとして独立されたAさんのストーリーをご紹介します。自身の経験と向き合い、他者の可能性を引き出す伴走者となる道を選んだAさんは、どのようなプロセスを経て、現在の「自分らしい幸せ」を見出されたのでしょうか。

会社員時代の軌跡と、変化への模索

Aさんは、新卒で入社した企業で約15年間、営業職やマネジメント職としてキャリアを積まれました。特定の業界で専門知識を深め、チームを率いる経験も重ねる中で、仕事における一定の達成感は感じていたと言います。しかし、日々の業務に追われる中で、「本当に自分がやりたいこと、社会に貢献したいことは何だろうか」という漠然とした問いが心に浮かぶようになったそうです。

特に、部下の育成やチーム内のコミュニケーションに深く関わる中で、人の成長に関わることに強い関心を持つようになりました。マネジメントのスキルを磨くことにはやりがいを感じていましたが、組織の目標達成という制約の中で、一人ひとりの個性や内面にじっくりと寄り添うことの難しさも同時に感じていました。

このような思いを抱える中、Aさんは偶然コーチングという分野に出会います。単なる指導や助言ではなく、対話を通じて相手自身が答えを見つけ出すプロセスを支援するというコーチングの考え方に触れ、これこそが自分が本当にやりたいことかもしれない、と感じたと言います。

独立への具体的な準備と行動

コーチングへの関心が高まるにつれて、Aさんは独学での学習に加え、専門のコーチングスクールに通い始めました。会社員として働きながらの学習は時間的にも精神的にも大きな負担でしたが、新しい知識やスキルを習得する喜び、そして同じ志を持つ仲間との出会いがAさんの背中を押しました。

スクールでの学びを進めるうちに、Aさんはプロのコーチとして活動することを具体的に考えるようになります。まずは副業として、知人やスクールの同期を相手にコーチングセッションを重ね、実践経験を積みました。手探りの状態でしたが、セッションを通じて相手の変化を目の当たりにするたび、この仕事の可能性とやりがいを確信していったそうです。

独立を決意したのは、副業での手応えが大きくなってきたことと、会社員としての仕事との両立に限界を感じ始めたことが重なったためです。退職までの数ヶ月間は、事業計画の検討、ウェブサイトの準備、そして最も重要であるクライアント獲得のための戦略立案に時間を費やしました。経済的な不安はありましたが、長年勤めた会社を辞め、自身の名前で活動を始めることへの期待感の方が大きかったと言います。

直面した困難と、経験が活きた瞬間

独立後、Aさんがまず直面したのは、収入の不安定さでした。会社員時代の安定した給与とは異なり、自身の活動が直接収入に結びつくため、精神的なプレッシャーを感じる日々が続きました。特に、最初の数ヶ月はクライアントの獲得に苦労し、焦りを感じることもあったと言います。

また、会社という組織から離れたことによる孤独感も、想像以上に大きかった困難の一つでした。仕事に関するちょっとした相談や、雑談ができる相手が常にいる環境から、一人で全てを判断し、実行していく環境への変化は、精神的なタフさを要求されました。

これらの困難に対し、Aさんは会社員時代の経験を活かして乗り越えていきました。営業職として培ったコミュニケーション能力や課題解決スキルは、クライアントとの信頼関係構築や、自身のサービスの改善に役立ちました。また、マネジメント職として経験した組織運営や目標設定のスキルは、自身の事業を継続していく上での計画性や実行力に繋がりました。

さらに、孤独感については、コーチングスクールでできた仲間や、同業者との交流を意識的に増やすことで解消していきました。お互いの活動を応援し合い、情報交換を行う中で、一人ではないという安心感を得られたと言います。

独立後の生活と、見出した「自分らしい幸せ」

コーチとして独立して数年が経った現在、Aさんの生活は会社員時代とは大きく変化しました。時間や場所の制約は減り、自身のペースで仕事を進められるようになりました。これは、子育てやプライベートな時間との両立という点でも大きなメリットとなっています。

収入は会社員時代のように安定しているわけではありませんが、自身の提供する価値が直接クライアントの成果に繋がり、それに対する対価を得るというプロセスに、強いやりがいを感じています。経済的な不安が全くないわけではありませんが、精神的な満足度や仕事への充実感は増したと言います。

Aさんが最も「自分らしい幸せ」を感じるのは、コーチングセッションを通じて、クライアントが自身の可能性に気づき、前向きな変化を遂げる瞬間に立ち会う時だそうです。会社員時代に感じていた「もっと一人ひとりに寄り添いたい」という思いを実現できていること、自身の経験や学びを他者の役に立てられていることに、深い喜びを感じています。

この事例から学ぶこと

Aさんの事例は、現在のキャリアに疑問を感じながらも、具体的な一歩を踏み出せないでいる多くの会社員にとって、示唆に富むものと言えるでしょう。

この事例からは、キャリアチェンジや独立といった大きな変化には、事前の準備と具体的な行動が不可欠であること、そして困難は必ず訪れるものの、これまでの経験が予期せぬ形で活かされる可能性があることが学びとして挙げられます。

また、「幸せ」のカタチは一つではなく、安定した収入や組織での立場といった従来の価値観とは異なる場所に、自身のやりがいや充実感を見出すこともできるという可能性を示しています。自分の内なる声に耳を傾け、学び続け、挑戦し続けることの大切さを、Aさんのストーリーは語っているように感じられます。

人それぞれの「しあわせカタチ」は、多様な選択肢の中に存在しています。Aさんのように、自身の経験を力に変え、新しい道を開拓していく姿は、私たちに自身のキャリアや生き方について深く考える機会を与えてくれます。