しあわせカタチ図鑑

言葉の架け橋を築く:会社員からフリーランス翻訳家へ転身した道

Tags: 翻訳家, フリーランス, キャリアチェンジ, 語学, 働き方

キャリアの岐路に立った時

多くの会社員がそうであるように、日々の業務に追われる中で、自身のキャリアや将来について立ち止まって考える瞬間が訪れることがあります。今回ご紹介するのは、長年勤めた会社を辞め、フリーランスの翻訳家として全く新しい道を歩み始めたAさんの事例です。

Aさんは、学生時代から外国語や異文化に関心があり、趣味として語学学習を続けていました。会社員としても、海外とのやり取りがある部署で一定の語学スキルを活かしていましたが、業務内容は多岐にわたり、語学そのものや翻訳という行為に深く関わる時間は限られていました。

「もっと言葉とじっくり向き合いたい」「自分の語学スキルを専門的に活かせる仕事がしたい」という思いが徐々に募り始めたと言います。日々の業務に大きな不満があったわけではありませんでしたが、「本当にやりたいこと」と「今の仕事」との間に感じるギャップが、Aさんを新たな道へと進ませるきっかけとなりました。

新しいキャリアへの第一歩

フリーランス翻訳家への転身を決意してからのAさんの行動は具体的でした。まず、自身の語学力と翻訳スキルがプロとして通用するレベルにあるかを確認するため、翻訳の専門学校の短期講座を受講したり、オンラインの翻訳力診断を受けたりしました。同時に、翻訳業界に関する情報収集を始め、どのような分野の翻訳があるのか、どのように仕事を得るのかといった知識を蓄えました。

会社員として働きながらの準備は容易ではありませんでしたが、通勤時間や休憩時間、休日の多くを学習と情報収集に充てたと言います。翻訳エージェントへの登録準備として、履歴書や職務経歴書の作成、トライアル翻訳への挑戦なども並行して行いました。

ある程度の手応えを感じ始めた段階で、Aさんは会社に退職の意向を伝えました。退職日までの期間を利用して、改めて専門分野を絞り込んだ学習を進めたり、複数の翻訳エージェントとの面談を行ったりと、独立後のスタートダッシュに向けた準備を一層加速させました。

翻訳家の厳しい現実

フリーランスとして独立し、最初は順調にいくつかのエージェントから仕事を受注することができました。しかし、会社員時代の安定した収入とは異なり、収入には波があることをすぐに実感したと言います。特に最初の数ヶ月は、仕事量にばらつきがあり、経済的な不安を感じることも少なくありませんでした。

また、翻訳作業そのものだけでなく、クライアントとのやり取り、契約内容の確認、請求書の作成、経費管理といった事務作業も全て自分で行う必要があります。会社員時代には意識していなかった「事業主」としての責任とタスクの多さに直面しました。

さらに、納期が重なった際のプレッシャーや、常に高い品質を維持するための自己管理も重要です。自宅での一人での作業が多く、孤独を感じたり、モチベーションの維持に苦労したりすることもあったと言います。専門分野の知識は常にアップデートが必要であり、継続的な学習も欠かせません。

困難を乗り越える力

これらの困難に対して、Aさんは様々な方法で対処しました。収入の不安定さに対しては、複数のエージェントと取引することでリスクを分散させたり、クラウドソーシングサイトも活用したりしました。また、確定申告や経費管理については、早い段階で税理士に相談し、効率的な方法を学びました。

納期管理や品質維持のためには、タスク管理ツールや翻訳支援ツール(CATツール)を積極的に導入し、作業効率を高めました。孤独感については、オンラインの翻訳家コミュニティに参加したり、定期的に他のフリーランスと情報交換したりすることで解消を図りました。

最も重要だったのは、困難を「成長のための機会」と捉え直す視点でした。「分からないことは調べる」「できないことは専門家の助けを借りる」「うまくいかないときはやり方を変えてみる」といった柔軟な姿勢を持つことが、壁を乗り越える力になったとAさんは語っています。

働き方が変わって見えた世界

フリーランス翻訳家として数年が経ち、Aさんの生活は大きく変化しました。経済的な面では、収入の波はあるものの、経験と実績を積むことで以前より安定してきました。経費の管理や税金の支払いなど、自己責任の部分は増えましたが、収入が直接自分の努力に反映されるやりがいも感じています。

時間の使い方は、会社の定時という枠がなくなり、より自由になりました。その反面、自己管理能力が試されます。集中して作業する時間、クライアントとのやり取り、学習時間、休憩時間などを自分でバランス良く配分する必要があります。この自由さの中で、仕事とプライベートの境界線が曖昧になることへの注意も払っています。

人間関係については、会社の同僚との関係は薄くなりましたが、クライアントや翻訳業界の知人、オンラインコミュニティの仲間など、仕事を通じて新しい繋がりが生まれました。多様なバックグラウンドを持つ人々との交流は、Aさんにとって大きな刺激となっています。

そして、最も大きな変化は、仕事に対する価値観です。会社員時代には感じにくかった、「言葉を通じて誰かの役に立っている」「異文化間の理解を深める手助けをしている」というダイレクトなやりがいを日々感じています。収入だけでなく、「何のために働くのか」「仕事を通じて何を成し遂げたいのか」といった問いに対する自分なりの答えを見つけることができました。

言葉に込める想い、そして未来へ

Aさんの事例は、会社員以外の働き方として、自身のスキルや情熱を活かして道を切り開く可能性を示しています。フリーランス翻訳家としての道は決して平坦ではありませんでしたが、困難を乗り越えるたびに自信を深め、自分らしい働き方、自分らしい幸せのカタチを見つけていきました。

「幸せ」の定義は人それぞれです。安定した収入や地位に幸せを感じる人もいれば、自身の情熱を追求すること、社会との繋がり、時間の自由さ、自己成長に幸せを見出す人もいます。Aさんにとっての幸せは、まさに「言葉の架け橋を築く」という仕事を通じて、自己実現と社会貢献を両立できる点にあると言えるでしょう。

もしあなたが今のキャリアに課題を感じ、自身の持つスキルや関心を活かせる新しい道を模索しているなら、Aさんのように、まずは情報収集から始めてみるのも良いかもしれません。小さな一歩からでも、あなたの「幸せのカタチ」を見つける旅は始まるのです。